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東京高等裁判所 昭和37年(ネ)3060号 判決 1963年5月31日

控訴人 亡天野信太郎相続財産管理人 松尾黄楊夫 外一〇名

被控訴人 後藤輝彦

主文

控訴人松尾黄楊夫の控訴を棄却する。

右控訴人を除くその他の控訴人十名の控訴を却下する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人らは、原判決を取消す、被控訴人は原判決添付目録第一記載の土地は亡天野信太郎の遺産に属することを確認する、被控訴人は同目録第二記載の各人に対し同記載の持分を以て右土地につき神奈川知事に対する農地法第五条に因る許可申請手続をせよ、被控訴人は同目録第二記載の各人に対し同記載の持分を以て神奈川知事の許可を得て右土地につき横浜地方法務局寒川出張所に所有権移転登記手続をせよ、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

控訴人らは、一、原判決は民事訴訟法第二百二条に基いて訴却下の判決を言渡したけれども、控訴人松尾黄楊夫が亡天野信太郎の相続財産管理人として訴を提起したことは訴状の記載によつて明らかであるのみならず、もし右記載が不適当であつて、同控訴人が右管理人たる資格においてでなく、自己のために訴を提起したと見られるのであるならばこれを補正しうるものである。二、控訴人松尾は亡天野の相続財産管理人として独立して右亡天野の相続人らのために訴を提起する当事者適格を有するすなわち、同控訴人は民法第九百十八条第三項に基き家庭裁判所において選任せられたものであつて、その権利義務については民法第二十七条ないし第二十九条が準用せられているが、民法の他の相続財産管理人(同法第九百四十三条、第九百五十二条等)と権利義務において区別がない。相続人らは互に利害関係が対立するため管理人が選任せられるのであるから、管理人が独立して諸行為を行う権限があると解すべきであつて、民法第二十七条ないし第二十九条は管理人が代理人たることを規定するものでなく、単にその権限の範囲を定めたものである。三、かりに相続財産管理人は相続人の法定代理人であるとしても原裁判所は同控訴人に対し相続人らの法定代理人として訴を提起する旨民事訴訟法第二百二十八条により当事者の表示を補正することを命ずべきに拘らず、この手続を経ずに訴を却下したのは失当である、と述べたほか、その請求原因として主張するところは原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する被控訴代理人は、控訴人らの請求原因として主張する事実は、これを争う、なお、控訴人松尾は当事者適格を有しない、また右控訴人を除くその他の控訴人らは原審における当事者でないから、当審において当事者となることはできないと述べた。

理由

一、本件訴状の記載によれば、控訴人松尾は亡天野信太郎の相続財産管理人として、自ら原告として本訴を提起したのであつて、右亡天野の相続人らの法定代理人として本訴を提起したものではないことが明らかである。さらに、同控訴人は昭和三十七年十一月二十七日付原審提出の準備書面においても、同控訴人が自らその名において原告として本訴を提起することができる旨強く主張している。従つて、訴状に同控訴人を原告と記載したのが誤記でないことは明らかである。同控訴人は当審においても、本訴は同控訴人が自ら原告となつて提起したものであると主張している。

原判決もまた同控訴人が亡天野の相続財産管理人として自ら原告となつて本訴を提起したものと判断しているのであつて、この点において訴状における当事者の表示を不適当としているものではない。控訴人のいうように、原裁判所は訴状の記載を不適当と認めたのではないから、その補正を命ずる余地はないのであつて、補正を命じなかつたのが不当であるという理由は全くない。

二、控訴人松尾は、同人は民法第九百十八条第三項の規定に基き横浜家庭裁判所において亡天野信太郎の相続財産管理人に選任せられたと主張している。しかし、控訴状に添付せられた審判書謄本によれば、同控訴人は亡天野の遺産分割事件につきその審判手続が終了するまでの間同人の遺産の管理人として選任せられたものであることが明らかであるから、同控訴人は民法第九百十八条第三項に基いて選任せられたのではなく、民法第九百七条第二項家事審判規則第百六条に基いて遺産の管理者として選任せられたものと認められる。そして、右管理者はその資格において自ら当事者(原告)となつて訴を提起することができるとは解せられないから、原判決が同控訴人は本訴について当事者適格を有しないと判断したのは相当である。従つて本訴は不適法というのほかなく、しかもその欠缺を補正しえないことは明白である。

三、民事訴訟法第二百二十八条に則り裁判長が訴状の欠缺を補正すべきことを命ずるのは、訴状が同法第二百二十四条第一項の規定に違背する場合である。本件訴状には一に説明するように控訴人松尾が亡天野の相続財産管理人たる資格において当事者(原告)となる旨明白に記載せられ、しかもこれを誤記であると認める余地は全くないのであるから、当事者の記載として欠けるところはなにもない。従つて原裁判所が同法第二百二十八条に則り訴状の欠訣を補正すべきことを命ずべきであつたという控訴人の主張は理由がない。

なお、同控訴人が相続財産の管理人として自ら原告となつて訴を提起した場合、裁判所において、右管理人が相続人の法定代理人としてではなく、自ら原告となつて相続財産について訴を提起するのは不適法であると判断したからといつて、当事者を変更することを命ずるをえないのは、いうをまたないから、原裁判所がこのような命令をしなかつたのは相当である。

以上説明するとおり、原裁判所が控訴人松尾に対し、訴状の補正を命ずることなく、本訴を不適法として却下したのは相当であるから、同控訴人の控訴は理由がない。

四、亡天野信太郎の相続財産管理人松尾黄楊夫は控訴人松尾以外の控訴人ら十名(右亡天野の相続人ら)の法定代理人として、原判決に対し控訴の申立をしている。しかし、右控訴人らは原審における当事者(原告)でなく、また原審における原告の地位を承継したものでもない。その他右控訴人らが原判決に対し控訴をなしうる根拠はなにも主張せられていないのであるから、同人らの控訴は不適法として却下を免れない。

よつて、民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第九十三条に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 板垣市太郎 村木達夫 元岡道雄)

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